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アイデアはメーリングリストから。夢の牽引装置が商品化されるまでの道のり「ST-1L」開発プロジェクト
メーリングリストが生んだ夢の牽引装置

新牽引装置開発へのチャレンジの第一歩は、社内メーリングリストからである。製販を問わず全社員より希望者を募り自由に意見交換を行うことで商品イメージをひねり出そうというもので、弊社では初めての試みであった。

さまざまな部署の社員による活発な意見交換が行われ,理想的な牽引装置のイメージが作り上げられる。この夢の牽引装置には「鉄人32号」というコードネームがつけられた。

コードネーム「鉄人32号」
「鉄人32号」コンセプト
1. 患者は座位に近い姿勢で新型ベッドに進入する。
2. 所定の位置に腰を固定する。従来品のように強く締める必要はない。
3. ボタンを押すと、ベッドがゆっくりと仰向けの姿勢になる。
4. 脇を固定するスイングアームは、身長差に対応するため最初は長めになっており、患者の脇の位置に押し込まれると、その位置で固定される。
5. 仰向けになった患者の腰幅に合わせて、新型腰装具をワンタッチベルトにより固定する。
6. 装具プリテンショナーが働き、自動的に装具を締め直したあと、牽引をスタートする。
7. 理想的な牽引角度に自動的に誘導され、牽引・持続・緩和・休止が繰り返される。
8. 治療が終了すると、腰装具のプリテンショナーと脇装具の固定が自動的にはずれ、ゆっくりと座位の姿勢に戻る。

イメージ段階では、まさに夢の牽引装置であると誰もが考えた。しかし、当時の開発担当者にとって、実現への道のりはとてつもなく長いものであった。

夢を形に。「鉄人32号」への挑戦

設計を担当することになったのは、選抜された3名の研究員であった。

椅子に座り、ベルトを巻くだけで、自動的にベッドになるという機能を持たせることが、最初の難関であった。さまざまな方法が検討されたあと、従来品での脇を固定して腰を引っ張るという固定概念を捨て、腰を固定して脇を引っ張る方式が採用されることとなった。

幾種類もの実験機が製作され、実験が始まった。実験を進めていくうちに、牽引装置では当たり前であったワイヤー巻き取り方式では、部品点数が多くなり複雑な構造になるため、商品化が極めて困難であることが分かってきた。ここでも固定概念を捨て、ワイヤーの巻き取り方式から電動アクチュエーター方式への変更に踏み切った。

このほかにいくつもの固定概念を捨て去り、新たな方法を模索する中で、鉄人32号は完成に至ったのであった。

夢を形に。「鉄人32号」への挑戦
次なるステップ、「鉄人32号」の商品化
次なるステップ、「鉄人32号」の商品化

商品化で最初にぶつかった問題が、脇アームを自動装着するためのオートスイングアームの構造についてであった。いかに構造を簡単にするかがポイントになり、重力をうまく利用することで解決を見た。次は腰のホールドである。従来の腰装具を廃止してワンタッチで装着を実現させる必要があった。そこで思いついたのが、「腰をつかむ」ように固定することであった。マットの形状とベルトの位置を工夫し,スムーズな装着を可能にした。

当初のコンセプトをほぼ満足させた上で、腰部マットにヒータを入れたり、音声メッセージ機能やリラクゼーションサウンドを追加したりして、初号機10台を完成させることができた。いよいよ初号機は、商品化を前にしたモニタリングを実施することになったのである。

勇気ある決断。「ふりだしへ戻る」

初号機のモニタリングを開始して2ヶ月が経過したころ、モニタ先より続々と途中経過が入ってきた。おおむね好反応であったものの、少数意見として「腰を引っ張っている感覚がしない」という報告があった。開発担当者は、鉄人32号のコンセプトにプラスして、腰に負担を与えず治療効果が期待できる患者にやさしい商品を目指していたため、「腰を引っ張った感覚がしない」というものは、デメリットではなくむしろメリットであると考えていた。

しかし、これは感じ方次第で「脇が痛い」という印象に変わり、このままの「ST-1L」を発売すれば、「画期的ではあるが脇が痛い牽引装置」というレッテルが貼られ、売れない商品になるのではないかという懸念が社内で広まった。開発担当者も、牽引感覚がなければ物足りないと言われることも有り得ると納得して、牽引感覚のある商品へのシフトチェンジに踏み切った。

変更内容は、脇を固定して腰を引っ張る装置への構造変更となり、機構設計を最初からやり直すこととなる。正に「ふりだしへ戻る」を意味するものであった。設計変更が決定したのは、社内プレゼンテーション二日前のことだった。この時点での大幅な設計変更は、それまでの弊社では考えられなかったことである。それだけ、皆の夢の牽引装置にかける情熱は本物であったのだ。

勇気ある決断。「ふりだしへ戻る」
期待どおりに得られた‘牽引感覚’
期待どおりに得られた‘牽引感覚’

機構設計には新たな研究者が担当した。先に導入した三次元CADでの初の本格設計になった。発売時期が決定していたため、短期間での設計を余儀なくされたが、三次元CADの機能を駆使し、効率よく作業をすすめることができたため、今までにないスピードで設計を完了させた。

しかし、脇を固定して腰を引っ張っても、適度な牽引感覚があるのかどうかは、試作機を製作してみるまでは誰にも分からないことであった。試作機の機構部分が完成すると、次は今までの牽引装置のノウハウを動員してソフトウェアを完成させ、いよいよ試乗するときがやってきた。

そこには、牽引の感覚を感じられる「ST-1L」の姿があった。これなら合格だと確信できた。はっきりとした牽引感覚が感じられたのだ。また、初号機で開発部門と製造部門の連携を強化し、徹底的に組立方法を検証したため、組立工数を大幅に軽減できる設計が織り込まれたことも、このときに得られたプラスの要素であった。

X線写真が示した「ST-1L」の実力

「ST-1L」による治療で、腰椎の後部椎間孔が実際に開大することを確認するために、大学病院に協力を要請して、牽引時のX線写真を撮影することになった。開発に多大な労力を費やした「ST-1L」の真の価値が問われるとあって、撮影現場は期待と不安による異様な雰囲気に包まれていた。

「ST-1L」をX線室に持ち込んで、いざ撮影開始。機構設計担当者自身の腰部側面のX線写真が撮影される。撮影結果はいかに…。X線写真を一目見た瞬間に、腰椎の後部椎間孔が開大していることが確認できた。続いて、ソフトウェア設計担当者の腰部側面を撮影。これも開大がはっきりと確認できる。

夢の牽引装置が、「ST-1L」として実現した、感動の瞬間であった。紆余曲折を経て現実のものとなった牽引装置「ST-1L」は、発売以来、業界初の新技術として大きな評価を得ることとなったのである。

X線写真が示した「ST-1L」の実力
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