温熱療法Thermo Therapy

物理エネルギーを供給して組織を加温し、循環を改善し疼痛を緩和します。熱を伝達させる方式により、伝導熱療法、放射(輻射)熱療法、エネルギー変換熱療法に分類することができます。
組織温度が上昇すると疼痛閾値が上昇し、血管が拡張して循環が改善し、炎症性物質や老廃物が排泄され、栄養が供給されます。このため、疼痛が緩和し局所状態が回復します。
同時に、γ繊維の活動が抑制され、痙性の筋緊張が低下し、筋スパズムが改善し、軟部組織の弾性が増し粘性が低下します。
最近、分子レベルの研究が進み、ヒートショックプロテインの生成など温熱作用に関する新たな知見が得られつつあります。また、心疾患や閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療などが注目されています。

a. 伝導熱(Conductive Heat)療法

加温体を生体に接触させ、熱伝導により生体を加温し、温熱治療を行うものです。

1)湿式ホットパック装置Hot Packs

概要 保温材を内蔵したパックを60~80℃の湯で加温し、これを患部に当てて温熱治療を行います。加温したパックを患部に当てるだけで、簡単に温熱治療ができます。
類似のものとして電熱線を電気加熱する乾式の電気ホットパックも使用されています。
使用目的又は効果 温熱効果。
適応 打撲や捻挫、脱臼、骨折、断端痛、関節リウマチ、変形性関節症、関節拘縮、関節周囲炎、変形性脊椎症、骨粗鬆症、腰痛症、術後、筋肉痛、神経痛、神経炎、多発性神経炎、片麻痺、顔面神経麻痺等の不快感やこわばり、筋スパズム(肩こり等)、片麻痺等の痙直、浮腫、血行改善(レイノー病や末梢性運動麻痺)、疲労回復など。
禁忌 心疾患、感染症、有熱者、血圧異常、急性期疾患、悪性腫瘍、出血傾向のある人、循環不良部位、温覚鈍麻がある場合、医師が不適当とみなした人。

2)パラフィン浴装置Paraffin Bath

概要 一定温度に保温された溶融パラフィン(ワックス)の入った浴槽に、患者の手、指等身体の一部を入れ、疼痛や関節痛を緩和するために用いられます。
使用目的又は効果 温熱による疼痛、関節痛の緩解。
適応 打撲や捻挫、脱臼、骨折、断端痛、関節リウマチ、変形性関節症、関節拘縮、関節周囲炎、変形性脊椎症、骨粗鬆症、腰痛症、術後、筋肉痛、神経痛、神経炎、多発性神経炎、片麻痺、顔面神経麻痺等の不快感やこわばり、筋スパズム(肩こり等)、片麻痺等の痙直、浮腫、血行改善(レイノー病や末梢性運動麻痺)、疲労回復など。
禁忌 心疾患、感染症、有熱者、血圧異常、急性期疾患、悪性腫瘍、出血傾向のある人、循環不良部位、温覚鈍麻がある場合、医師が不適当とみなした人。

b. 放射(輻射)熱療法Radiation Heat

電磁エネルギーを患部に放射(輻射)し、その輻射熱で生体を加温し温熱治療を行います。

1)赤外線治療器Infrared Therapy unit

概要 赤外線を照射して温熱治療を行います。最近は応答速度の高いヒータを用い、ヒータ温度を経時的に変化させて慣れの少ない温熱治療を行うものも使用されています。
赤外線をスポット状に集光し、高いエネルギー密度で局所刺激するものについては、後の光線療法の項で述べます。
使用目的又は効果 身体の硬直、疼痛又は炎症のある部位を温めて治療。
適応 各種疼痛、肩こり、捻挫、挫傷、筋炎、腰痛、筋肉痛、関節炎、関節周囲炎、腱鞘炎、神経痛、神経炎、創傷、RAの痛み、筋スパズムなど。
禁忌 膠原病、ポルフィリン症、大理石様紅斑など光線療法により増悪する疾患、光線過敏症の人、悪性腫瘍、内出血性傾向のある人、乳・幼児、意思表示ができない人、知覚障害、有熱性疾患、急性炎症、化膿性疾患、低血圧、悪性貧血、医師が不適当とみなした人。

c. エネルギー変換熱療法Energy Conversive Heat

電磁波や超音波を生体に照射すると、体内で吸収されて熱エネルギーに変換されます。この熱エネルギーを利用するのがエネルギー変換熱療法です。

1)マイクロ波治療器Microwave Therapy Unit

概要 周波数が2450MHzのマイクロ波(電磁波)を使用します。マイクロ波は生体の主に水に吸収されて熱に変換され生体を加温します。接触型アプリケーターを服の上から直接患部に当てるだけで、簡単に温熱治療を行うことができます。2つのアンテナから交互に出力してホットスポットが生じにくいようにした安全な装置も使用されています。
使用目的又は効果 温熱による治療のために電磁波を照射し、体組織を加熱します。
適応 挫傷、捻挫、腱鞘炎などの外傷、関節リウマチの痛み、筋スパズムなど。
禁忌 ペースメーカ等体内埋込み型医用電子機器を使用している人。人工関節等、体内に金属を埋め込んでいる人。悪性腫瘍組織。 阻血組織。 結核患者。中程度以上の浮腫。出血性部位または血友病患者。無痛覚の部位。目。成長期の骨端。新生児、乳幼児、または、意志表示のできない人。妊婦もしくは妊娠が疑わしい場合。男性生殖器。炎症症状の強いとき。神経痛の極めて急性の時期、その他、医師が不適当とみなす人。

2)超音波治療器Ultrasound Therapy Unit

概要 超音波は人の耳で聞くことのできない20kHz以上の音波で、超音波治療器では1~3MHzを用います。超音波を生体に照射すると、組織に吸収され、熱に変換されます。その作用範囲は周波数が低いほど身体の深部に及び、3MHzの超音波は体表面から2cm程度まで、1MHzは2~5cm程度までの治療に用います。超音波治療器の性能を表す指標の一つにBNR(Beam Non-uniformity Ratio)があります。これは、プローブから放射される超音波の均等性を表す指標であり、BNRが小さいほど超音波は均一に放射され、BNRが6以上のものでは空洞化現象と呼ばれる組織損傷を生じる危険性があるとされています。
使用目的又は効果 超音波の熱及び非熱生理学的反応による疼痛の緩解、微小マッサージ作用、筋肉痛及び関節痛の軽減。
適応 疼痛、筋スパズム、瘢痕組織、異所性骨化、関節周囲炎、関節拘縮、リウマチ、腱鞘炎など。
禁忌
次のような人、部位には使用しないこと。
心臓、脳、眼、耳、生殖器、悪性腫瘍、内分泌腺、成長期の骨端板、麻痺部位、椎弓切除を行った脊髄付近の部位、急性の損傷、または炎症部位、体内に金属、合成樹脂(人工関節など)を埋め込んでいる部位、循環障害(血栓症、動脈硬化症、阻血、うっ血、浮腫)のある患者、出血傾向の高い患者、結核など感染症の患者、植込み形電子装置(ペースメーカなど)使用者、妊婦もしくは妊娠の可能性がある方、幼児など意思表示のできない方、その他、医師が不適当とみなした方。
以下の場合は、医師の判断によること。
高血圧症、高熱疾患、骨粗鬆症、6ヵ月以内に放射線治療を受けた患者、高齢者、その他、体に異常を感じている方。