クリニック開業ガイドー開業までのスケジュール

2023年03月21日

コンサルタントをしていると、先生方の声をお聞きする機会が多くありますが、「開業して良かった」と言われる先生方には共通していることがあります。共通点とは、その先生方が開業に向けて、丁寧に準備を進められたという事です。開業申請を出して、あとはすべてを私ども専門家や業者任せにするという形では、なかなかそのような満足を得られるご開業にはならないと感じます。

この記事では、クリニック開業までのステップについて説明します。ステップを理解し、先生の思い描く理想のクリニックとなるよう、丁寧に準備をすることが大切だと思います。

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クリニック開業までの10ステップ

この記事では、以下の10のステップで開業までの流れをご説明します。

ステップ1.クリニック開業意思の明確化

ステップ2.クリニック開業エリア・物件の選定

ステップ3. 事業計画・資金調達

ステップ4.物件の設計・施工

ステップ5.医療機器・備品の選定

ステップ6.開業手続き・申請

ステップ7.クリニックのスタッフ採用

ステップ8.広告・広報

ステップ9.院内研修・模擬診療

ステップ10.クリニック開業

ステップ1.クリニック開業意思の明確化

軽視されがちですが、経営する上でもっとも重要となる項目のひとつに「経営者の意思」があります。「意思」とは英語で「Purpose」であり、「パーパス経営」という言葉は近年日本の企業経営においても注目を集めています。

「漠然とやりたいと考えていたから」「必要に迫られて」などの理由で開業される場合もあるでしょう。しかし経営は、開業後に何十年と続きます。スタッフを採用し、地域に貢献し続けることが求められます。

そのため、「なんのために」「誰のために」開業をするのか、開業した結果、患者様・地域住民・スタッフ・取引先にどのような貢献をもたらすことができるのかについて、思いを巡らす必要があります。

この思いの深さが、開業後の経営を左右すると言っても過言ではありません。

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ステップ2.クリニック開業エリア・物件の選定

ステップ1で説明したように、経営は社会への貢献によって成り立ちます。そのため物件の条件だけを注視せず、自院がもっとも貢献できる場所を見つけることが、成功の鍵となります。

もっとも貢献できる場所とは、将来にわたって自院の診療科を必要とする患者様がいる場所です。

そのため、競合する他院の強みや立地、人口とその構成、土地開発計画、道路や公共交通機関の状況などを、現在から将来にわたって総合的に調査・分析して、開業エリアに目星をつけていきます。

またオンライン診療などのデジタル化により、診療圏が今後どのように変化するかについても想定する必要があります。

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ステップ3. 事業計画・資金調達

「事業計画」「資金調達」と聞くとハードルが高く感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし必ずしもすべて自分でおこなう必要はなく、会計事務所や経営・開業コンサルティング業者の力を借りながら、多角的に実施します。

事業計画は、経営計画と収支計画を3〜5年で立てることが一般的です。

経営計画には、経営理念・ビジョン・サービス(診療科)・事業戦略・人員計画・スケジュールが含まれます。収支計画には売上計画・損益計画・資金計画が含まれます。

資金調達は自己資金が基本です。不足がある場合は、金融機関からの融資を選択します。

なお資金調達を家族や友人に頼ることは関係の悪化につながる可能性があるため、避けたほうがよいでしょう。

金融機関からの融資を受ける場合、選択肢の例として、政府系金融機関である日本政策金融公庫と、地方自治体の融資制度が挙げられます。

どちらも低金利かつ審査が通りやすいという特長があります。ただし民間の金融機関と比較して審査に時間がかかる傾向があるため、余裕を持った動きが必要になります。

関連記事:クリニック開業に必要な資金は?

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ステップ4.物件の設計・施工

クリニックの建築には、店舗や住居とは異なり、多くの要件が求められます。医療機器特有の設備や電源への配慮、スタッフの動線、患者様のプライバシーなど、要件は多岐にわたります。

そのため、たとえば知り合いの設計事務所に安易に依頼したり、デザインに偏りすぎたりすると、要件を満たせずに不要なコストやスケジュールの遅れが発生することがあります。

クリニックを建築する際は、医療関連施設の開業実績が豊富な建築事務所に依頼されるケースや、経営・開業コンサルティング業者から紹介された医療機関の専門家が在籍している設計・施工業者に依頼されるケースもあります。

また先述のとおり、医療機器に必要な設備には特殊な仕様もあるため、設計にあたっては医療機器メーカーに確認することも必要です。

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ステップ5.医療機器・備品の選定

医療機器・備品の選定手順は、一般的に以下の手順で検討します。

(1)レセプトコンピューター・電子カルテなどのITシステム
(2)MRI、CT、X線装置などの設備に関係する機器
(3)物理療法機器、運動療法機器などのリハビリ機器
(3)心電計、エコーなどの診断機器
(4)診察台やカルテ棚のような備品

これらを選定するポイントとしては、「診療方針や得意分野にマッチした機器」「開業エリアでニーズが高い(集患力ある)機器」 「他院と差別化できる機器」の3点が挙げられるでしょう。

また医療機器は購入費用だけでなく、維持費用も計画しておく必要があります。また定期的な保守や点検も義務付けられています。いずれの機器においても、特殊な仕様もあるため、 ステップ4で述べたように医療機器メーカーに確認することが必要です。

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ステップ6.開業手続き・申請

クリニックの開業に必要な申請は多岐にわたります。代表的なものとして以下のような手続きがあります。

・診療所開設届:保健所に提出

・保険医療機関指定申請書:厚生局に提出

・生活保護法指定医療機関申請:福祉事務所に提出

・個人事業開始届・事業所設置届:税務署に提出

・労災保険指定医療機関指定申請書:労働基準監督署に提出

・医師会への入会:医師会で手続き

なかには申請後すぐに許可を得られないものや、申請のタイミングが月1回しかないものもあります。とくにクリニック名やレイアウトは保健所に事前相談が必要になるため、最低でも開業の半年前から準備する必要があります(なおベッド数20床以上の医療機関の開設手続きは異なりますのでご注意ください)。

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ステップ7.クリニックのスタッフ採用

クリニックを運営するためには、看護師、PT、OTなどの医療専門職だけでなく、受付や経理・総務などの事務職の協力も必要です。

募集方法としてまず思いつくのはハローワークです。また、民間の転職サイトもあわせて利用することで募集力が向上します。

そのほかには、開業準備期間中にそのとき勤めている病院からスタッフを引き抜くケースも多いです。しかし病院運営側とのトラブルや、開業するクリニックの評判にかかわるリスクには注意が必要です。

採用する際に重要な点は、スタッフの価値観や人柄です。スキルで選ぶケースが多いですが、スキルはあとから身につけることができます。そのため、ステップ1で掘り下げた経営の意思に共感し、体現してくれるかどうかを見極めることが重要となります。

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ステップ8.広告・広報

開業後に患者様に選んでもらうためには、まずは自院を知ってもらう必要があります。広告や広報は集患だけでなく、ステップ7の採用にもつながるため重要です。

広報活動には、内覧会や見学会の実施、チラシやパンフレットの配布、Webサイトの制作、看板の設置や講演会の実施などさまざまな方法があります。時期や予算に合わせて使い分けていきます。

注意点として、医療広告には法的な規制があり、厚生労働省の委託事業としてネットパトロールも行われています。厚生労働省の医療広告ガイドラインや専門家の意見を参考にしながら、適切な内容にて広告・広報する必要があります。

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ステップ9.院内研修・模擬診療

クリニックの引き渡しが済むと、いよいよ開業目前です。
開業2〜3週間前を目安に、院内研修や模擬診療(シミュレーション)を始めます。 院内研修では、診療に必要な知識だけでなく開業への思いなどをあらためて伝え、スタッフの一体感を作るとよいでしょう。

模擬診療は机上から始めます。診療(受付〜会計)だけでなく、カルテの記録方法、薬品などの物品管理や発注業務、勤怠などの労務、さらには急変時の対応まで想定します。さらに患者の名前をどう呼ぶのか?保険証を忘れた場合はどうするのかなど、細かく想定します。

次に、実際に動いてみます。ここで動線やスタッフ間の連携を実際に確認していきます。問題点があればその都度改善し、開業に備えます。

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ステップ10.クリニック開業

開業はあくまでもスタートです。ここから自分たちでサービスを提供し、軌道に乗せていかなくてはなりません。

とくに新患として最初に訪れてくれた患者様が継続して受診してくれ、また家族や友人へ紹介してくれるかは成功に大きく影響するでしょう。

最初はトラブルも多く出るかもしれません。感情的にならず、日々改善を重ねていくことが求められます。

さらに診療報酬の改定など、医療業界の情勢も日々変化するため、情報収集が不可欠となります。そのため集患だけに捉われず、定期的に訪問してくれる、医薬品卸、医療機器商社、製薬会社、医療機器メーカーの方と相談できる関係を築いておくことも大切です。

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まとめ

思いを持って決断した開業。だからこそ、軌道に乗せて形にしたい。そのためには今回ご紹介した丁寧なステップが必要です。焦ることなく、また遅きに失することもなく、準備を進めていきます。

医師一人で開業し、軌道に乗せることは決してできません。スタッフや専門家と協力しながら、患者様・地域住民・スタッフ・取引先への貢献を形にしていきましょう。

 

執筆者プロフィール

梅木駿太(うめきしゅんた) 
合同会社Re-FREE 代表/経営コンサルタント/医療経営・管理学修士(MHA)
理学療法士として医療・介護の現場を経験したのち、介護事業所を有する医療法人の事務長として経営に従事。現在は特に50床以下の小規模病院・クリニック・介護事業所を中心に、経営コンサルティングを行っている。